以前にExcel紙工作をした、最低賃金率と雇用の関係についてもう少し調べてみた。もちろん、素人的に。
結論から言うと、皆さんいろいろ最低賃金に期待するところ大だけれども、日本では、経済学者が懸念するように、最低賃金率の引き上げは雇用の減少を招く結果になりそうだね、ということ。
喧々囂々の議論をしている割には、皆さんは何に基づいていらっしゃるのやら。ちゃんと(少なくとも今までの実証結果に関しては)、ここ(大竹ほか(2013))でこれまでの結論がまとまっているのだから、まずはそれを読みましょうよ。
日本の実証分析の結果だけでなく、アメリカ等の結果についても主要なところがサーベイされている。本を買うのが惜しいとか、今すぐ読みたいという人は、RIETI DPを読めばこの本の第1章の内容が書いてあるので、大体のところがわかる。(興味があれば、第2章以降もどうぞ。)
たぶん、最低賃金引き上げ賛成の人は、アメリカのケースで、「最低賃金率を引き上げても雇用は減らない」という多くの結果、たとえば、
に依拠している様子(太字・赤字は私)。"Letter"の原典はこれ。
ノーベル経済学賞受賞者を含む600人の経済学者が賛同しているそうですが、書いてある内容は、そんなに迫力がないような...。"Could"だし、うまくできたとしても、"small"なわけでしょ? (誤読してる?)
せっかくなので、別に、サーベイを少し読んでみた。
調査手法、計量経済学的手法、データの性質、調査者の不運(!?)等、いろいろおもしろかった。重要なのは、Adjustment Channels。最低賃金率を引き上げたときに雇用を削減しないという実証結果を踏まえて、では、雇用者はどうやってそのショックを吸収しているのか、また、その大きさは大きいかということ。実証結果は、雇用削減で対応するという単純な完全競争市場とあまり整合的ではない。ただし、製品価格の引き上げとかは、非賃金的な支払いの変化はできるわけだから。(逆に、日本では完全競争市場になってるね、というのが上の本の話。)買い手独占、効率賃金、生産性改善etc.
日米比較の注意点としては、アメリカの最低賃金労働者としてはレストラン、ファストフード従業員、または、10代の若者。また、世帯主が最低賃金労働者になることも。日本の場合とはかなり違うので、素人出羽守には敷居が高い。
ましてや、最低賃金率と雇用の関係で書いたように、最低賃金率の引き上げ幅と失業率の2変数だけで論じるなど、アメリカ出羽守にもなりゃしない。
鶴(2013)の最後(DP版ならp. 24、本ならp. 31)がほとんど嘆き。
ここに2枠ですか、厳しそう。
せっかく勉強したので、CGEにでも落とし込もうか。GTAP v.9で、労働者が5種類(officials & managers, technicians, clerks, service/shop workers, agricultural and unskilled)に増えたし。
microfoundation次第でおもしろくなるか。
日本の労働市場分析
結論から言うと、皆さんいろいろ最低賃金に期待するところ大だけれども、日本では、経済学者が懸念するように、最低賃金率の引き上げは雇用の減少を招く結果になりそうだね、ということ。
喧々囂々の議論をしている割には、皆さんは何に基づいていらっしゃるのやら。ちゃんと(少なくとも今までの実証結果に関しては)、ここ(大竹ほか(2013))でこれまでの結論がまとまっているのだから、まずはそれを読みましょうよ。
- 大竹文雄, 川口大司, 鶴光太郎 (2013) 『最低賃金改革』, 日本評論社.
日本の実証分析の結果だけでなく、アメリカ等の結果についても主要なところがサーベイされている。本を買うのが惜しいとか、今すぐ読みたいという人は、RIETI DPを読めばこの本の第1章の内容が書いてあるので、大体のところがわかる。(興味があれば、第2章以降もどうぞ。)
- 鶴光太郎 (2013) 「最低賃金の労働市場・経済への影響: 諸外国の研究から得られる鳥瞰図的な視点」, RIETI Discussion Paper Series 13-J-008.
アメリカの労働市場分析
たぶん、最低賃金引き上げ賛成の人は、アメリカのケースで、「最低賃金率を引き上げても雇用は減らない」という多くの結果、たとえば、
- US Department of Labor, Minimum Wage Mythbusters:
Myth: Increasing the minimum wage will cause people to lose their jobs.
Not true: In a letter to President Obama and congressional leaders urging a minimum wage increase, more than 600 economists, including 7 Nobel Prize winners wrote, "In recent years there have been important developments in the academic literature on the effect of increases in the minimum wage on employment, with the weight of evidence now showing that increases in the minimum wage have had little or no negative effect on the employment of minimum-wage workers, even during times of weakness in the labor market. Research suggests that a minimum-wage increase could have a small stimulative effect on the economy as low-wage workers spend their additional earnings, raising demand and job growth, and providing some help on the jobs front."
に依拠している様子(太字・赤字は私)。"Letter"の原典はこれ。
- Economic Policy Institute (2014) "Over 600 Economists Sign Letter In Support of $10.10 Minimum Wage: Economist Statement on the Federal Minimum Wage," January 14.
ノーベル経済学賞受賞者を含む600人の経済学者が賛同しているそうですが、書いてある内容は、そんなに迫力がないような...。"Could"だし、うまくできたとしても、"small"なわけでしょ? (誤読してる?)
せっかくなので、別に、サーベイを少し読んでみた。
- Schmitt, J. (2015) "Explaining the Small Employment Effects of the Minimum Wage In the Unites States," Industrial Relations 54(4), 547-581.
調査手法、計量経済学的手法、データの性質、調査者の不運(!?)等、いろいろおもしろかった。重要なのは、Adjustment Channels。最低賃金率を引き上げたときに雇用を削減しないという実証結果を踏まえて、では、雇用者はどうやってそのショックを吸収しているのか、また、その大きさは大きいかということ。実証結果は、雇用削減で対応するという単純な完全競争市場とあまり整合的ではない。ただし、製品価格の引き上げとかは、非賃金的な支払いの変化はできるわけだから。(逆に、日本では完全競争市場になってるね、というのが上の本の話。)買い手独占、効率賃金、生産性改善etc.
日米比較の注意点としては、アメリカの最低賃金労働者としてはレストラン、ファストフード従業員、または、10代の若者。また、世帯主が最低賃金労働者になることも。日本の場合とはかなり違うので、素人出羽守には敷居が高い。
ましてや、最低賃金率と雇用の関係で書いたように、最低賃金率の引き上げ幅と失業率の2変数だけで論じるなど、アメリカ出羽守にもなりゃしない。
学者の嘆き(?)
鶴(2013)の最後(DP版ならp. 24、本ならp. 31)がほとんど嘆き。
日本の場合、各地域の最低賃金の値上げ幅に関する目安を示す中央最低賃金審議会...、例えば、6名の公益委員の内、少なくとも2名程度は最低賃金の理論・実証分析に詳しい労働経済学者を任命すべき
ここに2枠ですか、厳しそう。
- 厚生労働省 「中央最低賃金審議会委員名簿」, 平成23年7月1日現在.
せっかく勉強したので、CGEにでも落とし込もうか。GTAP v.9で、労働者が5種類(officials & managers, technicians, clerks, service/shop workers, agricultural and unskilled)に増えたし。
- Walmsley, T., Carrico, C. (2015) "Chapter 12.B: Disaggregating Labor Payments," in: Narayanan, B. G., Aguiar, A., McDougall, E. (eds.) Global Trade, Assistance, and Production: The GTAP 9 Data Base, Center for Global Trade Analysis, Purdue University.
microfoundation次第でおもしろくなるか。
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